『シークレット・レース ツール・ド・フランスの知られざる内幕』
タイラー・ハミルトン、ダニエル・コイル著 小学館・2013年5月
http://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784094088014
タイラー・ハミルトンのツールにおける、そしてそれ以上にランスの、ドーピングの告白/告発の書、と纏めてしまうこともできるだろう。間違いではないとしても、しかし、それだけではなかった。読了後、タイラーもランスも嫌いになることができなかった。憐憫でもなく、同情とも違う、なんともいえぬこの感情に戸惑っている。
ドーピングは恥ずべきことだ。だが、弱い人間だからドーピングをするわけではない。ドーピングをするから弱い人間なのでもない。ドーピングが「いいもの」だから、ドーピングをするのだ。
いいもの?
そう。いいもの、だ。おのれのレゾンデートルのすべてを懸けた戦いに勝利をもたらすもの、「苦しみに耐える能力を与え」*1、史上最高の自分へと導くもの。これが「いいもの」でなくて何だというのだ。しかも科学的エビデンスも明白なのだ*2。
しかし、またそれは同時に違法行為であり、文字通り致命的なルール違反でもある。この「矛盾」が絶望的なまでの沈黙と隠蔽を誘発する。タイラーの苦悩と、そしてランスの「苦悩」とが本書のハイライトをなす。
自転車レース界の暗部を暴いたノンフィクション*3としてだけではなく、より広く読まれるべき一冊。